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2014年12月1日月曜日

総会屋は公的な資格が必要な商売ではないので、その業界規模を特定するのは難しい。
警察庁刑事局長だった中平和水は、1980年の衆議院法務委員会で、その数、実に5800人に上り、そのうち暴力団関係者が1100人に達すると答弁している。
ちなみに、2年後の1982年の商法改正で企業による総会屋への利益供与が禁止された。
中平はさらに、翌年の法務委員会で「総会屋のカネ」について報告している。
「およその推計によりますと、大体一人当たり暴力団の年間所得の平均を1000万円程度であろう、こういうように見ている訳で御座います。
従いまして、5800人で御座いますから、単純に申し上げますと580億円程度ではなかろうか。
昭和53年現在で調べた時の推計では、421億円ぐらいの数字だったように記憶しておりますが、同じ推計方法でいきますと、大体その辺の数字、580億円ぐらいに。」
肝心なのは、払っていたのは企業だという事実である。
払う側の意図と意欲が無ければ、到底達しない多額の規模なのである。
菊池寛の書生から出発して、大物総会屋となった上森子鉄が、かつて理研ビニル工業の総会に出た時に、かねてからよく知る男に、「君もそういう立場になったんだから、こういう所に軽々に顔を出してはいけないよ」とやんわりとたしなめた事があった。
その男は、選挙で初当選した直後だった。
上森らの「総会屋仲間」であったその男の名前は、後に日本で最も有名になる。
男の名は田中角栄といった。
表裏渾然一体とした戦後の時間は、あらゆる者を「表」へと向かわせたのである。
お金は汚く集めても、綺麗に使えばいいじゃないか

by オスカー・シンドラー (ドイツ人実業家)
映画『シンドラーのリスト』より
米国ワシントン特別区には、ロビイストの聖地とも言える「Kストリート」がある。
ロビイストは建物のロビーに集う者を意味するが、そこから転じて、議会対策を含め、ある目的成就のために人的耕作を担う者を指す。
ロビイストは外国籍であっても登録できる仕組みになっており、日本人では石原慎太郎が登録している。
基本的には誰でも連邦議会に登録すれば活動が可能となる。
米国のロビイストは、第二次世界大戦直後の1946年に制定された「連邦ロビイスト統制法」という法律によって定められた職能制度である。
ちなみに、EU本部があるベルギーのブリュッセルは、米国のKストリート同様に、多くの業界団体、利益団体の事務所が集まるロビイストの聖地として知られている。
EUでは米国のように法制化されていないので、日本型の組織内ロビイストに似ている。
日本ではロビイストという呼称の制度化された専門職は確立されていないが、それらしき立場としては、虎ノ門界隈に数多く存在する業界団体や公益法人など、いわゆる特殊法人の専務理事職となる。
彼らの多くは、霞が関の各省庁を退官した高級官僚が中心で、中央官庁とのパイプ役として、業界からの陳情や要望を官庁に伝え、各業界団体は議員連盟を抱えている。
所管する法律がある限り、関連団体・組織が存在する。
各省庁の独自財源である特別会計を所管する独法が筆頭団体である事が多い。
「総会屋」の歴史は明治にさかのぼる。
日本では馴染みの無かった株式会社が明治以降に増加すると、慣れない株主総会の議事進行を円滑に進めるために、経営者は協力者としての友好的株主を囲い込もうと図った。
こうした要請を受けて登場したのが総会屋の起源であり、その流れには千原猪之吉と武部申策という二人の大きな流れがあるとされる。
この両者から発生した人脈が、戦後まで続き、更にそれぞれの細かな人脈が形成された。
総会屋の呼称は戦前から存在し、戦後、高度経済成長期には総会屋業界内の派閥化、グループ化が進み、組織化が進んだ。
この日本における「総会屋」という存在に該当するものは、株式会社の歴史が長い欧米には存在しない。
最大の要因は、欧米企業では経営と資本の分離が進んでいたのに対し、日本ではオーナー型の大企業がある時期まで日本企業の柱をなしていた時期があったからである。
つまり、日本の経営者の企業保身、自己保身が、総会屋と組む心理的な基盤を強化していた。