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2018年8月2日木曜日

銀行界では「バーゼル基準」という言葉が一般的であり、これが銀行再編の要因となりうる。
バーゼルとは、国際決済銀行(BIS)の本部がスイスのバーゼルにある事に起因する。
BISは1930年に設立され、もともとは第一次世界大戦に敗れたドイツから賠償金を取り立てるための機関だった。
これが第二次世界大戦後に、各国の中央銀行の間に立って利害調整を行う国際機関として機能している。
BISは、58か国の中央銀行が出資する株式会社である。
このバーゼルにはいくつかの委員会があり、そのうち「銀行の健全性」を監督してるのがバーゼル銀行監督委員会、通称「バーゼル委員会」である。
この委員会、あるいはBIS全体を指して、銀行界では「バーゼル」と読んでいる。
バーゼル委員会は、過去に2つの銀行監督基準を決議してきたが、現在は地銀にも関係する3つ目の基準が検討されている。
最も重要なのは「自己資本率」であり、国内のみで活動する銀行は、現時点では4%でよく、海外支店のある国際統一基準銀行は8%必要となっている。
現在検討中のバーゼルⅢでは、これを10.5%に引き上げる提案がされ、施行予定は2019年となっている。
地銀の自己資本率の平均は10%なので、どの地銀もこの基準を楽々クリアできると考えがちだが、バーゼルⅢの基準によると自己資本が減る可能性がある。
その最大の原因が銀行間の「株式持合」で、バーゼルⅢが採択されると他行が所有している自行株については自己資本から控除せねばならくなる。
しかし実際には、地銀は焦っておらず、当局がこの新基準を日本の銀行全てに当てはめる気がない事を知っているからである。
現在でも対象となるのは国際統一基準行のみであり、バーゼルⅢでは厳密に自己資本の充実を求められるのは世界で僅か30行、日本からは三菱UFJ、三井住友、みずほに加えて、野村ホールディングスだけとされているからである。
だが、このバーゼル基準は、そもそも欧州の銀行によって邦銀の力を弱めるために作られたものであり、自己資本が相殺されるというのも、日本の銀行間の株式持合を狙い撃ちしたのは明らかである。
そして、地方銀行間の株式持合が自己資本から相殺されるため、自己資本の絶対額を減らさないために、持合解消、合併により、銀行再編が進む可能性がある。
信金・信組が銀行に業態転換をして金融庁の検査を受けるのを拒むことで、地方金融機関の再編が進まない。
しかし、「金融機関の合併及び転換に関する法律」(1968年6月施行)では、信金・信組のままで銀行と合併することが可能なのである。
この法律は、度重なる改正を経て、現在も有効である。
この法律の「二章 合併」の「二節 銀行と共同組織金融機関との合併」では銀行と信金、銀行と信組合併につて説明されている。
更に「三節 共同組織金融機関と共同組織金融機関の合併」では、信金と信組の合併も想定して条文が書かれてる。
驚くことに、この法律では、信組が銀行を吸収合併する、信金が銀行を吸収合併することまで想定して条文が書かれている。
1968年当時から、強い信金・信組が銀行を買収することを予想していたのである。
実際に、信金・信組の方が、銀行より預金量が多い県がある。
こうした異業態間の合併があると相乗効果は高いと思われる。
信用組合から銀行に転換した事例として、過去に八千代銀行がある。
八千代銀行は、もともと信用組合だったが、1951年に信用金庫となり、1991年に第二地方銀行となった。
金融機関の合併はペストが減るので嫌うトップや役員は多い。
しかし、合併や経営統合ではない「業態転換」を避ける最大の理由は、金融検査にある。
信金・信組の件さ担当は金融庁ではく、地方財務局である。
地方財務局の検査は、金融庁の銀行に対するほど厳しい査問は行われない。
金融庁が進める銀行統合・再編が進まない理由の一つに、地方銀行、信用金庫、信用組合には強い受勲願望があるからである。
その証拠に、多くの地域金融機関のサイトには、誇らしげに理事長や会長の受勲歴が掲載されている。
この受勲への期待が地域銀行の再編を遅らせているのである。
また、地元政治家に頼る銀行の姿勢も上げられる。
日本は一票の格差が大きい異常な状況が改まらないため、地方政治家の数が無駄に多い。
彼らの活動の源泉である政治献金を最も多く出しているのは銀行界である。
関西アーバン銀行、みなと銀行、近畿大阪銀行は三井住友フィナンシャルグループが少数株主となり、りそなホールディングスが過半を出資する中間持株会社「関西みらいフィナンシャルグループ」の下にぶら下がる形で統合した。
関西みらいフィナンシャルグループの出資比率は、三井住友が20%前後、りそなが50%超となっており、実態は三井住友による傘下の二行の売却であることが分かる。
この関西みらいFGの三行統合パターンは、今後も繰り返される可能性がある。
りそなが拠点を持たないエリアの銀行を買収するという戦略が見えるからである。
りそなは首都圏と関西圏がメインであり、今後、全国各地の地銀を傘下に収めていく可能性がある。
銀行の統合・再編において、両行の勝敗を分ける基準は、銀行名が残る、本店が動かない、新銀行の頭取ポストを取る等、どれももっともな判定基準と思わるが、それらはそれほど重要なポイントではない。
重要なのは幹部行員の数と、どちらが銀行で最も重要なポストである「企画部門」と「人事部」を握るかである。
幹部とは次長以上の役職を指し、この数の配分を見れば、どちらが勝ったかハッキリと判る。
そして、どちらの銀行が企画部長と人事部長を取ったかで勝敗は明白となる。
過去、現在にわたり、人事部長と企画部長は銀行幹部の登竜門となる。
銀行員がエリートとみなされる時代は終わった。
今後、銀行の未来を担うバンカーとその他大勢のバンククラークにはっきりと分かれていく。
バンカーの定義は、欧米では支店長以上の銀行幹部のみを指し、支店長代理や調査役と言った職位の人は含まれない。
より厳格に定義すると役員のみと言ってもよい。
しかし、トップダウンではなくボトムアップ型が多い日本の組織では、部次長クラスもバンカーの範疇に含まれる考え方もある。
いずれにせよ、支店ではバンカーは1人だけ、本店でも数十人の単位しかいないのである。
バンカーが、銀行全体の5%しかいない銀行のリーダー層であるのに対し、それ以外は全てバンククラークと考えるべきである。