アメリカの第16代大統領のエイブラハム・リンカーンは、奴隷解放を宣言した人道主義者という印象が強いが、実は南北戦争では大統領でありながら北軍の最高司令官という、もう一つの顔がある。
軍歴は州兵として数カ月勤務した程度だったが、開戦後に国会図書館に籠り、独学で軍事的思考を身に着けたリンカーンは、「南北戦争を早期に終結させて合衆国の統一を維持する」という政治目的を実現するために、苛烈な作戦を推し進める。
それは軍隊同士が会戦の場で決着をつけるというナポレオン以来の常識を覆して、一般の市民、女性や子供、老人を攻撃目標に加えるというものだった。
これにより南軍の戦意を失わせ、降伏を促そうとした。
これは第一次世界大戦で展開される総力戦を先取りした発想だった。
これは第一次世界大戦で展開される総力戦を先取りした発想だった。
その結果、多くの非戦闘員が犠牲となり、今でもアメリカ最多の戦死者が出たのは南北戦争である。
そうした軍事行動の一方で、リンカーンが世界史的なスケールの判断を下したのが奴隷解放宣言だった。
これ宣言によって、北部の戦争の大義を道徳的な高みに押し上げると同時に、黒人奴隷を戦場や生産現場へ投入することにつなげ、早期の勝利を手にしたのである。
これ宣言によって、北部の戦争の大義を道徳的な高みに押し上げると同時に、黒人奴隷を戦場や生産現場へ投入することにつなげ、早期の勝利を手にしたのである。
奴隷解放宣言は、明らかにフランス向けのメッセージで、イギリスの干渉も防ぐことに成功している。
リンカーンは残酷な作戦であっても、アメリカ史や世界史の大きな流れの中では、いずれ許容されるだろうというビジョンを持ち、歴史の大局的な予見能力というリーダーの資質を持っていたのである。