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2017年10月15日日曜日

昔、新左翼方面に「加入戦術」というのがあった。
例えば革マル派の連中が、本籍を隠して社会党員になってしまう。
社会党という組織を使えるし、社会党の看板で動いた方が動きやすいからである。
アメリカでも、ネオコン(新保守主義)の連中は同じような加入戦術で共和党に入っていった。
同様にトランプ大統領支持の連中が、共和党をハイジャックした構図となっている。
トランプを支持する共和党は、リンカーンを生み出した本来の共和党ではなく、一つはティーパーティという宗教保守派、宗教右翼の連中で、もう一つはネオコンの連中であり、どちらも共和党的なものではない。
ネオコンとは、力によって世界に民主主義を広めていく。
共和党の伝統的な棲み分け外交や孤立主義外交と違い、普遍的な価値観を世界に押し付けるから、むしろ民主党的である。
ネオコンの源流は1930年代にニューヨーク市立大学で学んだトメツキスト達で、後に「ニューヨーク知識人」と呼ばれた連中である。
彼らが加入戦術で共和党に入り、中東を民主化すると叫んでイラク戦争を主導した。
アメリカの政治思想に影響を与えた重要な思想家がいる。
アメリカでは誰でも知っているが、日本では知名度がないラインホルド・二―バーという神学者で政治学者である。
1944年に『光の子と闇の子』という本を書きベストセラーになった。
どんな考え方かというと、新約聖書のルカによる福音書に「この世の子らは、この世界では光の事よりも賢い」というフレーズがある。
ある金持ちの財産管理人が、主人の財産を浪費したとバレた。
もうクビだと観念した管理人は、どうするか考えた末に、主人の債務者を一人ひとり呼び寄せて借金を申告させ、片っ端からマケてやった。
そうすれば、誰かが自分を迎えてくれるだろうと。
この不正な管理人をイエスが「賢い」と評した。
世の中には「光の子」たちと「闇の子」たちがいる。
光の子たちは、イエスを信じる弟子やキリスト者で、一つの理想を持って生きている。
一方で自分が生き残るには平気で嘘をつき、死ねば何も残らないんだと思っているのは闇の子たちで、世俗の多くの人々がそうであり、彼らの方が実は抜け目なくて賢いと。
両者がこの世界で喧嘩したら闇の子たちの方が色々と知恵を使うから勝ってしまう。
アメリカやイギリスの民主主義者やソ連の共産主義者は「愚かな光の子」というのが、二―バーの考え方である。
闇の子ナチスは最初、共産主義者たちは敵だ、と反共で味方を増やし、次に英米陣営は敵だと共産主義にすり寄って、光の子たちを仲違いさせ世界制覇を狙っている。
だからアメリカは、不介入主義やモンロー主義を掲げて傍観しているのではなく、世界に出ていき、光の子である英仏ともソ連とも手を握って闇の子に立ち向かわねばならない、とニ―バーは主張した。
ニ―バーは、歴代大統領のルーズベルト、トルーマン、ケネディ、ブッシュ親子、クリントン、オバマなどに絶大な影響わ与え、アメリカは世界展開しなければいけない、という思想を作った。
歴代大統領は、みんな演説でニ―バーを引用している。
トランプ大統領が公約したイスラエル駐米大使館のエルサレムへの移転について、実はアメリカ議会は1995年に米大使館をエルサレムに移転させるという法律を作って決定している。
この法律には、安全保障上の理由で行政府が実行しない場合は、半年ごとに議会に報告しなければならないという規定がついている。
そこで歴代大統領は、もめ事のタネになるからと手を着けず、半年ごとに議会に延期を報告してきた。
だからトランプ大統領が、「議会が決めた通りにやる」と言ってしまえば、議会は反論できず、エルサレムが首都だと自分で宣言しているイスラエルも否定できない。
トランプ大統領は、そのことを踏まえて動いていると思われる。
トランプ大統領を理解するためには、トランプの信仰を知っておく必要がある。
彼はプロテスタントのうカルヴァン派の流れを汲む長老派(プレスビテリアン)であり、この人達は、自分は生まれる前から神に「選ばれた人」だと確信して、自分の能力を世のため人のために使おうと思っている。
同時に彼は、クリスチャン・シオニストでもある。
クリスチャン・シオニズムは、キリスト教なんだけどユダヤ教を尊重し、イスラエルを極めて重視する、アメリカ独特の考え方である。
ヨハネの黙示録によると、最後の審判の日にイスラエルという国が現れることになっているが、これと今の中東にあるイスラエルを同一視し、イスラエルを神様がもたらした特別な国と考えている。
トランプ大統領が、選挙中に公約で言った通り、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移動したら、第五次中東戦争が勃発しかねない。
1967年の第三次中東戦争(六日戦争)でイスラエルは圧勝し、東エルサレムを占領した。この時にエジプトから市内半島とガザ地区を、ヨルダンから東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区を、シリアからゴラン高原を占領している。
ところが、この占領を全会一致で無効とした国連安保理決議242号があり、米英仏ソ中も日本も賛成している。
だからイスラエルが、一方的に「エルサレムは我が国の首都だ」と宣言しても、まともな国はどこもエルサレムに大使館を置いていない。
そこにアメリカ大使館を移転するとトランプは公約したのである。
2017年1月20日の大統領就任演説を聞くと、トランプ大統領の真意が理解できる。
彼はユダヤ系の歓心を呼ぶためなんかではなく、自分の信念からエルサレムに大使館を移転させようとしている。
今回の就任演説は、まず「私たちは古い同盟関係を強化し、新たな同盟をつくります。そして文明社会を結束させ、イスラム過激主義を地球から完全に根絶します」と、ISもアルカイダも皆殺しにすると宣言した。
続いてアメリカへの忠誠心や愛国心を強調した後、「聖書は『神の民が団結して生きていることができたら、どほどすばらしいことでしょうか』と私たちに伝えています」と、『旧約聖書 』詩編の第133編1節の言葉を引用した。
引用部分は、直訳に近い日本聖書協会の新共同訳によると「見よ、兄弟がともに座っている。なんという恵み、なんという喜び」となっている。
これは、ダビデ(イスラエル第二代王)がエルサレムを奪ってイスラエルの首府とし、さあ、これでヤハウェ紙の教えに基づく世界支配を、ここエルサレムから存分に広める事ができる、と人々が集ってともに礼拝し、喜び祝う詩の冒頭部分なのである。
トランプ大統領は、キリスト教徒だけが聖典とする新約聖書ではなく、キリスト教徒とユダヤ教徒の両者が聖典とする旧約聖書から、あえて引用してイスラエルと全世界のユダヤ人に「私はあなたたちと価値観を共有している」というメッセージを送ったのである。
トランプ政権が新設する国家通商会議の代表に就任するピーター・ナバロ死は、カリフォルニア大大学アーバイン校教授の経済学者で、ドキュメンタリー映画『中国による死』の原作者である。
対中強硬派であり、『米中もし戦わば』という著書もある。
中国と戦争することを想定し、きちんと研究して発表しよう、そうすれば互いに損すると分かるから、戦争は回避できるだろうという趣旨の本である。
これまでは皆んな遠慮し、中国をタブーにして、対中戦争について語らなかったが、今必要なのは中国との戦争の話だ、と主張する人が政権に入ると、米中関係が急激に緊張する恐れがある。
その一方で、トランプが駐中国大使に使命したブランスタンド・アイオワ州知事は、習近平の旧友であり、相矛盾するカードを切っている。
グローバル的・反グローバル的政策を同時に打ち出すの一緒で、バラバラであり、「一貫性がない」ということだけは、一貫しているのである。