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2014年9月9日火曜日

2014年4月28日、財務省の諮問機関である財政制度等審議会が「日本の財政はこのままでは危機的な状況に陥りかねない」という、極めて厳しい将来の姿を示した。
財政制度等審議会の試算の前提は、極めて楽観的で、経済成長率は名目で3%程度が続くとしており、過去の数字と比べるとかなり高い成長率となっている。
また、2020年度のプライマリーバランス黒字化は国際的な公約だが、政府自身は「まだ道が見えていない」と明言しているのに、財政制度等審議会の報告では、「達成済み」を前提としている。
それらの甘い前提の上でも、財務省は46年後の平成60年度の「国と地方を合わせた債務残高」を8157兆円とみている。
今年平成26年度の累積債務見通しは1196兆円なので、なんと6倍余りに膨らむという試算となっている。
米国アトランタ連銀・上級政策顧問のR・アントン・ブラウン博士は、「2016年から2077年の間に、日本は消費税率を最高53%まで徐々に引き上げねばならない」と言っている。(日経新聞2013年12月11日「経済教室」)
この消費税率53%というのは、累積赤字を減らす為ではなく、「累積債務のGDP比率を中期的に2倍で安定させるために」という事なのである。
現在、「累積赤字の対GDP比200%」で、日本の財政が保たれているのは、日銀が大量に国債を引き受けることでゼロ金利が続いており、支払利息が少額だからである。
「名目経済成長率 > 名目長期金利」を満たしていれば、安定的な国債発行ができる、という「ドーマーの定理」がある。
「名目経済成長率 > 名目長期金利」であれば、税収伸び率が金利支払い伸び率より大きいだろうから、プライマリーバランスが達成されていれば、国は資金繰り倒産しなくて済む、という考えである。
日本では1990年代以降、「名目経済成長率 > 名目長期金利」だったことは殆どないが、財政破綻せずに長期国債を発行し続けてこれた。
「ドーマーの定理」が働かなくても、金融機関と日銀が国債市場を支えてきたので、財政破綻しなかった。
現在は、日銀だけが国債大量買入れで財政破綻を回避している。
国債費とは、毎年の元本償還額と支払利息の合計額であり、平成26年度予算では23兆円が計上されている。
ところが元本償還額とは、前年度末の国債発行残高に60分の1を掛けた額となっている。
そもそも「60年償還ルール」は、建設国債用に作られたものなのに、赤字国債にも適応されているのである。
赤字国債については、昭和50年代に発行を始めた当初は、満期日に全額、現金償還するのがルールだった。
満期の時の負担増が大きくて、他の歳出をカットせねばならなくなり、国会で借款債の発行を承認し、建設国債の60年償還ルールを適用することになってしまっている。
日本政府は、資金繰りの苦しさをごまかす為に粉飾決算の手法を取っている。
プライマリーバランスとは、歳出から国債費を除いた数字である。
平成26年度予算は96兆円だが、税収とその他収入で55兆円、赤字が41兆円である。
毎年の元本償還額と支払利息の合計額である国債費は23兆円なので、プライマリーバランスの赤字は18兆円となっている。
プライマリーバランスを黒字化するという2020年度には、国債費は43兆円になる見込みとなっている。
つまり、2020年度にプライマリーバランスが黒字化したところで、43兆円の赤字であり、今後も累積赤字は増々積み上っていくのである。
2001年の量的緩和以降、日銀は1年以上の国債を買い始めている。
白川総裁時代は、2年債までしか買っていなかったので、2年経てば国債は償還され、日銀のバランスシートは縮小した。
ところが、黒田総裁が始めた「量的・質的緩和」では、大量の10年債をはじめ、20年債、30年債、40年債まで買い始めている。
10年債に至っては、毎月発行額の7割まで買っている。
つまり、満期が来るまで10年から40年かかり、インフレに勢いがついても、踏むブレーキが無いのである。
日銀が、インフレが加速してきたから、金融引き締めによって金利を引き上げようとすると、国債の価格は下落してしまう。
価格が下落していく国債を引き受けるバカは世界中のどこにもいない。
更には、日銀が保有している資産である日本国債の価値が暴落すれば、その資産を担保に「発行銀行券」という名前の約束手形(日本円)の信用も失墜する事となる。
1923年のドイツのハイパーインフレについて書かれた『ハイパーインフレの悪夢』(140ページ)に、「中立国に資産を持っていた幸運な少数の者を除くと、不労所得階級は『見るに忍びないみじめさ』を呈していた」とある。
ハイパーインフレの被害から逃れるためには、海外に資産を逃がさなくてはならない事が明示されている。

<訳者あとがき>
本書の原著"When Money Dies: The Nightmare of the Weimar Hyper-Inflation"は、1975年にイギリスで刊行され、その後、しばらく絶版になっていたが、2010年、ある噂をきっかけに復刊された。
その噂とは、「オマハの賢人」と称される世界的に著名な投資家ウォーレン・バフェット氏が、オランダの金融業界の友人にこの本を「必読書」として推薦したというものだった。ブログやウェブサイトでこの話が広まった結果、古本市場で同書の価格はいっきに上昇し、最高で1600ポンド(日本円にするとおよそ21万円)の値が付いたという。そこで版元はこの需要に応えるため、ペーパーバックでこの本を復刊させた。
2010年7月11日、イギリスの有力紙テレグラフでこの一件が報じられると、復刊されたペーパーバックはさらに注目を集め、たちまち英アマゾンの売り上げランキングで18位に入ったという。

ハイパーインフレの悪夢

ハイパーインフレは、大増税と同じ効果がある。
税金は国民から国への富の移行であるのに対して、インフレは債権者から債務者への富の移行である。
日本最大の債務者は日本国政府であり、その債権者は日本国民なのである。
ハイパーインフレとは、税金という形を取らない大増税なのであり、国民の犠牲の上に国家財政を救う事ができる究極の手段なのである。
1923年のドイツでは、1月にパン1個が250マルクだったのに、12月には3990億マルクに値上がりした。
これは、1月に初乗り700円のタクシー代が、12月には1兆1000億円になったという事である。
ハイパーインフレ時のドイツでは、喫茶店で1杯6000マルクだった珈琲が、飲み終わったら8000マルクになったという記録もある。
ハイパーインフレを抑えるためには、緩やかな手段はなく、日本でも1927年(昭和2年)と1946年(昭和21年)には、預金封鎖と新券発行という暴力的な方法が最終的に選択された。
1946年は戦後だったが、まだ明治憲法下で実施された。
昭和憲法では第29条で私有財産権が守られているので、このような暴力的な方法が行えるのか疑問だが、憲法解釈の範疇でしかないかもしれない。