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2016年1月20日水曜日

経済のグローバル化に伴う税のフラット化によって、所得税、法人税の累進性が削がれた結果、高齢化社会に向けての社会保障の充実は、消費税、相続税などに依存する比重が大きくなっている。
しかもその負担増を受け止めるべき富裕層と多国籍企業は、国内での課税を巧みに逃れている。
この結果、そのような手段を取れない勤労庶民と国内中小企業だけが、社会保障の負担を強いられることになり、消費税増税などによって、この傾向は今後増々拡大していくことになる。
米国の場合、市民権を持つ永住者は、たとえ海外に移住しても、その後10年間は米国人としての納税義務が継続する。
米国永住権を放棄しても10年間に30日以上、米国に滞在したり、一定条件のもとで永住権放棄自体が租税回避とみなされた場合は、居住者同様の納税義務が発生する。
スペイン、イタリアではタックス・ヘイブンへ出国する場合にのみ、居住者並みの納税義務が課されている。
大企業の株式保有者の多くは富裕層であり、法人税の減税は企業の内部留保を通じて、富裕層の金融所得と金融資産の増大に貢献することとなる。
しかも金融所得は総合課税ではなく、分離課税であり、所得税の累進課税の枠組みから外れており、金融所得が多い富裕層にとって有利な税率となっている。
2013年12月末時点から提出義務付けられた国外財産調書は、日本国内に居住し海外に5000万円以上の資産を有する個人が対象である。
報告対象となる資産には、動産不動産を始め特許権や漁業権などの法的権利、銀行、保険、信託などの金融取引、株や債券など有価証券など、あらゆる資産が含まれている。
しかし、外国の金融機関経由で日本株式を購入すると、報告の対象にはならない。
また、あくまでも個人が対象とされているので、法人を利用して個人資産を移転してしまえば、提出義務を回避できてしまう。
2014年8月に国税庁は、国外財産調書の提出数を公表したが、その数は5539人で保有する国外財産の総額は2兆5142億円だった。
米国では海外に1万ドル以上の資産がある納税者はIRS(米国内国歳入庁)への報告が義務付けられている。
韓国では2010年に海外金融口座制度が導入され、2011年6月から申告が開始され、10億ウォン以上の金融口座が対象となっている。
2013年の世界の富裕層の分布(The global weaith pyramid)
保有資産額       人口    人口比率  富の占有率
100万ドル以上    3200万人    0.7%    41.0%
10万から100万ドル  3億6100万人   7.7%    42.3%
1万ドルから10万ドル 10億6600万人  22.9%   13.7%
1万ドル以下      32億700万人   68.7%    3.0%
さらにトップ0.7%の超富裕層3200万人の国別分布
アメリカ  1321.6万人  42%
その他   - 12%
日本    266.5万人   8%
フランス  221.1万人   7%
ドイツ   173.5万人   5%
英国    152.9万人   5%
イタリア  -       5%
中国    112.3万人   4%
豪州    112.3万人   4%
カナダ    93.3万人   3%
スイス    61.0万人   2%
スウェーデン -      2%
スペイン   -      1%
台湾     30.9万人   1%
グローバル・タックスとは全世界を対象とする課税であり、その実施には徴税主体となる超国家的機関が必要となる。
グローバル・タックスの先行事例としては、航空券連帯税があり、世界に先駆けて2006年にフランスが導入し、現在9カ国で導入されている。
税の徴収は航空会社に対して参加各国で実施され、最終的に世界保健機関(WHO)に集められる。
そして、この税の導入と同時に設立された国際機関のNITAID(ユニットエイド)が、最終的に参加国からWHOに蓄えられた税収の使い道を決定する仕組みである。
ユニットエイドは、「エイズ・結核・マラリアという感染症で苦しむ途上国の人々のため、医薬品・診断技術の価格を下げて、広く供給が行き届くようにする」目的で設立され、既に世界96カ国で成果を上げている。
この税の導入によって、航空券連帯税の課税が世界中で始まっており、フランスおよび韓国を訪れた日本人観光客への課税で年間10億円の税収を上げたと推定されている。
日本は導入国ではないが、日本人が知らない間に航空券連帯税を納税しているのである。
金融取引に対する税の扱いに変化の兆しがある。
グローバルな資本取引のうち、投機的な取引の抑制を目指す「トービン税」が、導入に向けてEUで検討され実施時期が迫っている。
ジェームズ・トービンは、1981年にノーベル賞を受賞し、ケインジアンとして有名なアメリカの経済学者である。
トービンは、1972年に、投機目的での短期的な資本取引を対象に、税を利用して取引を抑制する方法を提唱した。
トービン税の発想は、1929年の大恐慌の引き金となったニューヨーク証券取引所の株課大暴落が、ロンドン証券取引所の暴落に比べて激しかった理由ょ調べていたケインズが、株式売買にかかる取引税の有無がその原因ではないかという点に着目したことに由来する。
当時、英国では有価証券取引に重い取引税が課税されており、この取引税が市場の流動性を低下させる効果を持っていた。
国際的な資本取引に、1%程度のわずかな率の取引税を課すのであれば、実需に基づく資本取引では取引回数が少ないため、殆ど負担にならないが、裁定取引のような価格差を利用して利益を得る投機的な取引においては、取引回数が多くなるので、コスト負担が増えてしまい、短期的な登記取引を抑制する効果が規定できると考えられている。
消費税は国内取引における財またはサービスの移転に注目して課税が行われる。
しかし、Amazonなどの海外事業者から電子書籍を購入すると、国内の自宅のPCで購入しているにもかかわらず、消費税は発生しない。
原因は、消費税法が成立した1988年当時、海外の事業者と国内の消費者が頻繁に直接取引を行うということを、税務当局が想定していなかったからである。
結果、現行の消費税法では、原則通り海外との取引を不課税取引として、消費税の対象とはしなかったのである。
実際に現実的に課税権が及ぶ有効範囲は領土内に限られている。
その為、海外に子会社を設立し、そこにサーバーを設置して、アクセスしてきた日本の消費者にサービスを提供するネット事業者が増えている。
楽天の電子書籍サイトKoboは、カナダ籍の会社をM&Aしたこともあり、カナダの販売子会社扱いとなっていて、サーバーもカナダに設置されている。つまりAmazonと同じ条件で勝負ができるのである。
2013年度の国内電子書籍の市場規模は936億円、前年比28%増となっており、この推移で市場規模を試算すると2018年には2790億円に達する。
これだけの市場規模での課税機会を放置することは、税務当局にとって有り得ない規模になってきている。
日本では、どこの銀行にでも口座を開設することが可能であり、複数の銀行で複数の口座番号が存在する。
その結果、日本国内での個人の銀行預金の口座数は、普通預金で3億300万口座、定期預金で4億7300万口座と、合計で7億8600万口座にのぼる。
さらに、信用金庫に1億3600万口座、ゆうちょ銀行に3億7700万口座がある。
これらを合わせると13億の個人口座が存在している。
先進諸国においては、税と社会保険料は一体徴収して、行政コストを抑える事が主流になりつつある。
これらの国々では、何らかの番号によって個人情報の管理が行われている。
米国は1936年、スウェーデンは1947年、英国は1948年、フランスは1945年、イタリアは1977年、ドイツは2003年に、国民背番号が導入された。
米国では社会保障番号で銀行の個人口座は管理されている。
TJN(Tax Justice Network)は、公表されたGDP推計値と世界銀行の地下経済規模の報告データを使用して、1999年から2007年の9年間にわたる各国の地下経済の推計を行っている。
これには合法的な組成回避も含まれている。
ランキングは、地下経済によって徴収漏れが発生し、その結果失われた税収の多い順となっている。
第1位はアメリカで地下経済規模は1兆254億ドル、喪失した税収は3373億ドルとなっている。
日本は7位で地下経済規模は6000億ドル、失われた税収は1700億ドルと推定されている。
ちなみに、2位のブラジルと4位のロシアの地下経済の規模は、その国の政府支出を上回る規模となっている。
現時点で各国の税務当局に有効な対抗策がない租税回避スキームとして、「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」という手法がある。
このスキームは、1980年代後半にAppleが初めて行い、現在ではGoogleやFacebookなども採用している。
Googleはこのスキームによって、2011年だけで20億ドルの法人税支払いを逃れている。
2014年4月に、習近平、温家宝などの中国共産党指導者の親族が、英領バージン諸島に、2000年以降だけでも推定で1兆から4兆ドルの資産を蓄財していると報道された。
英領バージン諸島におけるオフショア法人のオーナーや出資者を国籍別でみると、米国籍3713人に対して、香港および中国籍が2万1321人と実に6倍に達しているという。
1930年にスイスのバーゼルに設立された国際決済銀行(BIS)は、第一次世界大戦に敗れたドイツの戦争賠償支払いの為に設立された国際金融機関だったが、その後、ナチスの再軍備に資金協力していたことで有名である。
第二次大戦が始まり、ナチス支配が欧州全体に広がり、ナチスはオランダやベルギーの中央銀行から金塊を掠奪し、スイス中央銀行やBISに持ち込んだ。
国際取引の決済通貨として利用できなくなったライヒスマルクに代わって、スイスフランでの戦争物資の調達が可能になる事を意味した。
BISはイングランド銀行や日本銀行などの第一次大戦の戦勝国である出資銀行へ第二次大戦中も配当を継続しつつ、ナチスドイツにも協力していたのである。
ちなみに、スイスは金融業界だけでなく、産業界も重火器や医薬品などの軍事物資をナチスへ提供し、戦争協力をしている。
1934年に成立したスイス銀行法により、スイスの金融機関は秘密性を国際的な競争優位の源泉とした。
そして前年の1933年にドイツでナチス政権が発足し、富裕なユダヤ人は財産を守るためスイスの銀行へ殺到したが、その多くが収容所へ送られ最後を遂げた。
大戦後に、難を逃れたユダヤ人遺族らが、記憶と遺言を頼りに、預金払い戻しを求めてスイスの銀行と交渉した。
しかし、銀行は銀行法の守秘義務を楯に、その要求に応じなかった。
これに対して、ユダヤ人団体は集団訴訟を提訴し、資産返還活動を行った結果、1998年に和解となり、UBSとクレディ・スイスの2行が12億5000ドルの賠償請求に応じた。
これにより、矯正収容所送りとなった1万6000人のユダヤ人匿名口座の4億9000万ドルが、本人または遺族に返還された。
さらに、銀行に保管されていたナチスがユダヤ人から掠奪した資産2億500万ドルの払い戻しにも応じた。
つまりスイスの銀行は、戦後53年間もナチスの資産を保管し続けていたのである。
訴訟の間、スイス銀行法による銀行員の守秘義務の強化が、亡命ユダヤ人の資産をナチスから守ることに貢献したという、身勝手な宣伝を繰り返していた。
信託の歴史は古く、イングランドやスコットランドの騎士が十字軍としてエルサレムへ出征する際に、母国に残した妻子のために土地の管理運営を信頼の置ける第三者に任せたのが、その始まりだという。
また、イスラム法にも「ワクフ」と呼ばれる、信託のシステムがある。
信託による所有権の分離効果により、信託が何重にも繰り返されると、真の所有者である受益者を外部から特定することを困難にできてしまう。