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2017年5月9日火曜日

日本において「女性が育児をするもの」という考え方が広がるのは、大正時代に都市部から始まり、昭和時代に徐々に庶民の世界に拡大していったと思われる。
第一次世界大戦後に景気が良くなった日本では、多くの企業や銀行が誕生し、安定して給料がもらえるサラリーマンが生まれた。
1930年時点でサラリーマンは日本全体で200万人しかいなかった。
このサラリーマンというエリート男性の出現と共に、「専業主婦」という存在が生まれることになる。
また日本で初めて「母性」という言葉が用いられることになったのが、大正時代のことで、スウェーデン語の翻訳として日本に登場したが、言葉が普及するのは昭和時代に入ってからとなる。
「母性は本能」という育児専門家がいるが、大正より前の日本人は「母性」という言葉を知らなかったのである。
18世紀のフランスでは、誕生後に赤ちゃんを乳母に預けたり、里子に出すという習慣があったという。
当時の資料によると、1780年にバリで生まれた子供は2万1千人で、そのうち母親のもとで育てられた子供は1000人にも満たなかったという。
他の2万人の子供達は、里子として遠方に送られてしまっていた。
背景としては、経済的に厳しい家庭にとって、子育ては負担が重く、女性は出産後すぐに復帰する必要があったからだという。
日本でもヨーロッパでも、「母親が子供を育てる」という価値観は当たり前ではなかったのである。
歴史学者の太田素子氏よると、江戸時代は「父親が子供を育てた時代」だという。
当時の育児書は、現在とは異なり、男性が男性に対して書いたものばかりだったという。
武士にとって、家を守るため長男を家長として教育するために父親が奮闘していたのである。
一方、庶民は村単位や大家族で子育てをしていた。
「社会の中でどこに投資すれば社会にとってトクか」という事について、アメリカの研究から分かっているのは、大人に対する教育訓練は思ったほどの成果を生んでいないという事である。
例えば、高校を中退した若者達に対して、全寮制の学校に入れて再教育する「ジョブコープ」というプログラムがある。
そこそこの投資効果があると評価されてはいるが、ペリー幼稚園プログラムなどの幼児教育と比べれば、コストパフォーマンスが悪い事が分かっている。
ペリー幼稚園プログラムの「社会収益率」は7~10%と計算されている。
つまり、4歳の時に投資した100円が65歳になった時に6000円~3万円になって社会に還元されると言うこになる。
シカゴ大学のジェームズ・ヘッグマン教授は、学力テストでは測れない「非認知能力」こそが、人生の成功において重要であり、「木認知能力」を伸ばす教育は、早ければ早い方が良いという。
「木認知能力」の多くは、他人から学ぶものである。
ヘッグマン教授が、アメリカの一般教育修了検定(日本の高卒認定試験)を分析した結果、一般教育修了検定に合格した若者は、高校中退謝り、いい人生を送っていた。
そして、普通に高校を卒業した若者に比べて、高校に通わずに一般教育修了検定に合格した若者の方が、年収や就職状況、健康状態までが悪い傾向にあったという。
そして犯罪率や福祉が必要になる割合も高かった。
この研究から推察できるのは、学校で身につけるのは、「学力」だけではなく、教師や同級生との交流の中で、「非認知能力」を身につけ、それが人生の成功に繋がっていくという。
教育社会学者の苅谷剛彦氏が、家庭環境が子供の「努力する才能」を決める、という恐ろしい研究を発表している。
豊かな階層に生まれた子供達は、子供の頃からの習慣で「努力」が難なくできるので、学習意欲も高いし、結果的に学校の成績もよくなる。
しかし、貧しい階層の子供達は、そもそも「努力」する習慣がない。
学校で学ぶ意義を見つけられず、あくせく勉強することに価値を感じていない。
だから彼らは、将来の生活よりも現在の学校生活を楽しもうとし、
「いい学校に行けばいい人生が待っている」という物語を信じられず、「自分探し」に奔走するようになるという。
つまり、生まれた家によって「意欲の格差」が生じてしまうのである。
内閣府が実施した調査でも、貧しい家に生まれた子供の方が「テストで良い点がとれないとくやしい」と感じる割合が少なかった。
貧しい家の子供の方が、「意欲」という「非認知能力」が身についていないのである。
よく勉強や仕事ができない人に対して、「努力が足りない」という批判がされるが、「努力できる」という「能力」は、子供の頃に身につけた習慣に大きく影響されている可能性が高い。
子供の頃に受けたしつけが、その人の年収に影響を及ぼしているという研究がある。
京都大学の西村和雄氏の調査によると、子供の頃に、「うそをついてはいけない」「他人に親切にする」「ルールを守る」「勉強をする」という4つのことを教えられた人は、大人になってから、そうでない人と比べて平均年収で57万円高かったという。
この調査は、「子供の頃に回りの大人からよく言われたこと」を聞いたものだが、この4つのことが他のしつけよりも効果があったという事が証明されたという。
ちなみに、高学歴の人とそうでない人を比べた場合、「ルールを守る」は高学歴の人が多く言われていた。
一方で「ありがとうと言う」「大きな声を出す」などのしつけは、学歴には関係がなかった。
行動経済学者の池田新介氏の研究によると、子供の頃に、夏休みの宿題をギリギリまでやらず、休みの最期にしていた人ほど、借金が多く、喫煙傾向にあり、肥満者になる確率が高いという。
乳幼児教育が子供の「非認知能力」を高め、それが人生の成功において非常に重要だという事を学問的に証明し、ノーベル経済学賞を受賞したシカゴで医学のジェームズ・ベックマン教授は、「5歳までのしつけや環境が、人生を決める」という。
その根拠として「ペリー幼稚園プログラム」よりも低い年齢を対象にして行われた「アベセダリアン・プロジェクト」を挙げている。
この実験は、貧しい家に生まれた平均成語4.4ヶ月のアフリカ系アメリカ人を対象に行われた。
保育園に通った子供達は、1日に6時間から8時間、週5日間、当時の最新理論に基づいた学習ゲームをさせられた。
結果し、ベリー幼稚園プロジェクトと同様の結果が出て、教育を受けた子供たちは学校の出席率や大学進学率が高く、「いい仕事」に就いている割合も高くなったという。
これらの実験を踏まえて、ヘッグマン教授は、「20代で集中的な教育を施しても、幼児期ほどIQを高めることはできない」という、残酷な事実を突きつける。
人生は後から挽回するのは非常に難しいのである。
殆どの日本人は、幼稚園や小学校の頃よりも、大学時代に高い教育費を払っている。
しかし、教育経済学の観点からすると、「人的資本への投資は、とにかく子供が小さいうちに行うべき」というのが、結論となっている。
この主張の根拠になっている有名な実験として、1960年代に行われた「ペリー幼稚園プログラム」が有名である。
このブログラムでは、貧しい地区に生まれたアフリカ系住民の3歳から4歳の子供達に、質の高い就学前教育を提供した。
子供6人に1人の先生かせ担当し、その先生も修士号以上の学位を持っている人に限定した。
読み書きや歌のレッスンを週に5日、それを2年間続けた。
さらに1週刊につき90分の過程訪問を実施し、親にも積極的に介入したという。
この実験では、素晴らしい幼稚園に通うことができた58人の子供と、入園を許可されなかった子供65人を比較し、その後40年にわたって追跡調査をした。
小学校入学後は、追跡調査をするだけで、子供達への脅威区介入は行われていない。
この実験の結果、ペリー幼稚園に通った子供は、通わなかった子供に比べて、「人生の成功者」になる確率が高いことが分かった。
彼らは19歳時点での高校卒業率が高く、28歳時点での持ち家率が高く、40歳時点での所得が高く、40歳時点での逮捕率が低かった。
つまり、貧しい家に生まれても、質の良い就学前教育を受けることができれば、高い学歴を手にし、安定的な雇用を確保し、犯罪などに走る事が少ないということが証明された。
アメリカで実施された有名な実験によれば、良質な保育園へ通うことができた子供達は、学歴と収入が高くなった一方で、犯罪率は低かった。
乳幼児教育は、子供達の「学力」を上げたけではなく、「非認知能力」といった「生きる力」を上げたのである。
最近の研究では「学力」よりも、意欲や自制といった「非認知能力」が人生の成功とって重要なことが分かっている。
それを母親人にな任せていいものではなく、「非認知能力」は、ヒトとの交流によって育まれるものである。
厚生労働省の調べによると、幼児のいる世帯のうち三世代家族の割合は16%にまで下がっており、親世代と子供世代の別居化が進んでいる。
また、三菱UFJリサーチ&コンサルティングによると、「子どもを預けられる人がいる」と答えた母親の割合は、2002年の調査では57.1%だったが、2014年の調査では27.8%にまで減っている。
発達心理学者の大日向雅美氏が1994年に実施した全国調査によると、「子供がかわいく思えないことがある」という母親は実に78.4%、「子育てが辛くて逃げ出したくなる」と答えた人は91.9%にも及んだという。
最近、日本保育協会が実施した調査でも、10%の保護者が「子どものいない人がうらやましい」、16.3%が「子育てが重荷」、38.5%が「時間に追われて苦しい」と答えている。
総務省の「社会生活基本調査」によると、6歳未満の子供がいる夫婦がそれぞれどれだけ家事と育児をしているかが確認できる。
2011年の調査によると、女性は1日平均7時間41分を火事に費やしているが、そのうち3時間22分は育児にあてていた。
一方で男性は、育児と家事を合わせて1時間7分で、そのうち育児時間は39分に過ぎない。
アメリカでは男性が1日平均3時間13分(うち育児1時間5分)、スウェーデンでは平均3時間21分(うち育児1時間7分)を家事に費やしている。
日本では、母乳全盛の時代を迎えており、熱心な母親は「完全母乳育児にこだわり、大変なストレスを受けている母親がいるという。
しかし、厚生労働省の「乳幼児栄養調査」によると、子供が1ヶ月の時点でさえ完全母乳保育ができている人は42.4%に過ぎなかったという。
52.5%の人は母乳と粉ミルクを併用しており、粉ミルクなど人口栄養だけを使っている人も5.1%いた。
子供が6ヶ月になった時点では、完全母乳保育の人は34.7%しかいない。
粉ミルクで育った子供が発育不全になったというデータはなく、実際にこれまでも多くの日本人が粉ミルクで育てられてきた。
養子縁組をする時の養親に求められる基準として次のような要件を満たす事が求められている。
・25歳から45歳までの婚姻届を出している夫婦
・離婚の可能性がなさそうなこと
・健康で安定した収入があること
・育児をするのに十分な広さの家であること
・共働きの場合、一定期間は夫婦のどちらかが家で育児に専念できること
つまり、日本で親になるためには、ある程度のお金があり、教養があることが前提となる。
ちなみに戸籍上も親子となる養子縁組と違い、子供を一時的に預かるという形の里親になるにも、厳しい条件が課させている。
東京都では「居室が2室10畳以上」が求められ、保育士資格を持つ場合を除いて、夫婦にしか里親が認められていない。
つまり、一人で働く女性は、いくら高収入だとしても日本では養子縁組どころか、里親にもなれない。