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2016年12月1日木曜日

あまり知られていないが、実は日本の金持ちは、先進国の中で実質税負担率が異常に低いのである。
確かに名目の富裕層の税率は日本は高いが、日本の所得税には金持ちに対する様々な抜け穴がある。
先進主要国の国民所得に対する個人所得税負担率は、日本は断トツで低い。
アメリカ11.2%、イギリス12.9%、ドイツ11.9%、フランス10.1%に対して、日本は僅か7.4%しかない。
日本の金持ちはアメリカの金持ちの半分以下しか税金を払っていない。
2009年のアメリカの個人所得税は1万2590億ドルで、日本円にすると100兆円ちょっとである。
一方で日本の2009年の個人所得税は15兆5千億円程度で、アメリカの7分の1以下しかない。
個人所得税というのは、先進国ではその大半を高額所得者が負担しているものであり、国民全体の所得税負担率が低いということは、つまり「高額所得者の負担率が低い」ということなのである。
マイナンバー制度が導入されたからといって、国家は今まで知り得なかった国民の情報を取得できるようになる訳ではない。
現在の税法においても、国家は全ての国民の収入と試算を知る権利を持っているからである。
税務署の国税調査官には、「質問検査権」という国家権限が与えられている。
質問検査権とは、国税調査官は国税に関するあらゆる事柄について国民に質問できる、という権利であり、国民はこれを拒絶できない。
また、税務署は日本中の金融機関をくまなく調べることもできる。
すでに国家は国民の経済生活すべてを監視、把握する権利をもっている。
逆に言えば、マイナンバー制度が導入されたからといって、市民の権利が今よりも侵害されることはない、ということになる。
マルサは巨悪の脱税を暴く正義の味方のように見られることが多いが、実際にはタブーが多々あり、むしろマルサが踏み込める領域は非常に限られている。
あまり知られていないが、マルサは資本金1億円以上の大企業に入った事は殆どない。
マルサが大企業に行かない理由としては、通常1億円以上の追徴課税が見込まれ、また課税回避の手口が悪質だったような場合に入るが、大企業の場合利益が数十億円あるので、1億円の追徴課税といっても利益に対する割合は低いから、それほど重い罪(悪質)ではないということである。
つまり、中小企業の1億円脱税と大企業の1億円脱税では、重さが違うというのである。
大半の大企業には、顧問として国税OBの大物税理士が付いており、国税庁からみると大企業は大切な天下り先でもある。
国税というのは、上下関係に厳しい職場であり、「一期違えば虫けら同然」と言われ、先輩後輩の礼儀が非常に重んじられている。
しかし、マルサの中では、先輩であろうと後輩であろうと、マルサに入った年が古い者が偉いという独特の文化がある。
だからマルサでは、入職が何期であろうと、年齢が何歳であろうと、マルサに先に入った者が専売としての扱いを受ける。
また、マルサの査察官の中には、神経が通常と違ってしまい、他の国税の職場に戻れない人がいる。
マルサに一度入った人は、なかなか普通の世界では生きていけなくなり、ずっと出られなくなるケースが多い。
まるでベトナム帰還兵のように、戦場でしか生きていけない兵士になってしまうのである。
国税職員は出世競争の中で、35歳くらいで「上席」という肩書を手に入れる。
この上席という肩書は、自分の業務上の身分に冠される。
例えば、調査官の場合は「上席調査官」、徴収官の場合は「上席徴収官」となり、査察官だと「上席査察官」となる。
この上席という肩書は、よほどのことが無い限り誰でもなれるポストである。
次に38歳くらいから、「総括」というポストがある。
上席というのは何人もいるが、「総括」というのは部門に1人しかいない。
その次に40歳くらいから「統括官」というポストがある。
これは10人前後の部門の責任者で、一般企業だと課長程度の立場となる。
統括官は総括にならない人でもなれるが、総括になった人の方が、後々まで出世する事が多い。
そして統括官の少し上のポストに「特官」というものがある。
これは自分の業務上の身分に「特別」という言葉が冠されるポストであり、調査官だと「特別調査官」となり、略して「特官」というのである。
特官は統括官より、身分上は上の立場になるが、特別な事案を担当する職務であり、部下が1~3人しかいない。
統括官と特官以上のポストは、急激に少なくなるので、統括官止まり、特官止まりの人がかなり多い。
統括官、特官に慣れた人の中で、10人に1人くらいが「総務課長」になる。
総務課長は税務署の総務部門の責任者で、総務課長になれるかどうかが、それ以降の出世の分かれ道となる。
総務課長になれれば、「副署長」にまでなるのはほぼ約束されている。
総務課長より上は、国税局の課長や「厚紙特官」など、国税幹部のポストとなる。
小さい税務署には副署長がいない所もあるが、大きな税務署には2人いる所もある。
この副署長になれるのが、50人に1人くらいになる。
そして、副署長になっても2人に1人は税務署長になれずに退職することになる。
つまり税務署長になれるのは100人に1人くらいの割合で、ノンキャリア職員は最高に出世しても税務署長にまでしかなれない。
税務署長の中でも、より大きな税務署の所長の方が偉いという事になっており、東京国税局では「麹町税務署」「神田税務署」「日本橋税務署」「京橋税務署」「芝税務署」が5大税務署と言われ、これらの是六署長は他の税務署長よりも格が高い。
ただ、最も大きな税務署の署長になれたとしても、そのポストはキャリア官僚が30歳くらいに到達する程度のポスト格にすぎない。
国税職員には、最初に配属された部門により、「背番号」が割り振られ、その背番号は定年まで変わることはない。
国税には、主に、所得税、資産税、法人税、管理徴収の4つの部門があり、職員は最初に配属された部門の「所属」とされるのである。
例えば最初に「所得税」に配属されると、その職員は原則として、ずっと「所得税」の職員ということになる。
税務署が転勤になることはあっても、「所得税部門」の職員であることは変わらない。
たまに期間限定で他の部門への人事交流はあるが、1~2年で元に戻ってくる。
各税目のプロパーを育成するためと言えば聞こえはいいが、実際のところは縦割り行政の最たるものである。
結果、各部門に帰属意識や縄張り意識ができてしまう。
霞が関の各省庁の官僚が、自省の省益ばかりを考えるのと全く同じことが、税務署という狭い世界の中でも行われている。
国税職員のノンキャリアには、なぜ大卒と高卒の違いがあまりないかというと、トップのキャリア官僚たちにとってノンキャリアの待遇などどうでもいい事だからなのだといえる。
ノンキャリアの出世などというのは、たかが知れており、どちらが早いか遅いかなど、大勢に全く影響しないからである。
以前は国税のノンキャリア職員の採用は、高卒対象の「普通科」だけだったが、1970年から大卒対象の国税専門官という枠が設けられた。
当時の税務署員というのは、有名大学に入れる実力がありながら、家庭の都合で高卒で就職するものが公務員試験に集まった。
その優秀なノンキャリア達がキャリアに楯突くようになったので、自分達に向けられた矛先を大卒のノンキャリアに向かわせようとしたという逸話があるという。
官僚機構というのは、全体的に「キャリア官僚を守るため」に作れている。
国税庁のノンキャリア職員は、採用当初は全国12の国税局に採用されることになっている。
国税局に採用されたノンキャリア職員達は、まず税務署な配属され、きほんてきな職務技能を身につけた後、国税局に配属されたり、国税庁に配属される。
国税職員の間では、税務署は「支店」、国税局は「本店」と呼ばれている。
そして国税庁は「大本店」「大本営」と呼ばれている。
国税職員の3分の2は定年まで国税局に行くことはなく、「支店」の税務署で過ごすこととなり、また国税職員の9割以上が定年まで国税庁に行くことはない。
国税庁に抜擢されるのは、20~30人に1人くらいであり、相当に狭き門ということになる。
国税庁は4段階のピラミッドになっている。
一番下は高卒以上を対象にした「税務署員採用試験」に合格した者達で、国税庁内部では「普通科」と呼ばれている。
その次の段が大卒以上を対象にした「国税専門官採用試験」に合格した者達で、国税庁内部では「専科」と呼ばれている。
国税職員の98%は、この普通科と専科で占められており、彼らが国税庁の実務を担当しているノンキャリアの職員である。
普通科と専科は高卒と大卒の違いはあるものの、待遇や出世などには、それほど大きな違いはない。
ピラミッドの下から3段目に位置するのは、旧国家Ⅰ種試験に合格した国税庁採用のキャリア組であり、国税庁の中だけで勤務する。
そしてピラミッドの頂点に位置するのは、旧国家Ⅰ種試験(現「総合職試験」)に合格し、財務省に入省した者達である。
彼らは財務省のキャリア官僚であり、国税庁の専任ではないが、国税庁のトップに君臨し、実質的に国税庁を支配している。
国税庁、税務署は、税収への影響を気にするため、職員の不祥事を特に嫌う官庁である。
そのため、各国税局には職員の不正を監視する部署があり、日頃から税務署員の素行を調べ、不祥事を未然に防いでいる。
国税庁、税務署の職員には厳しい不文律があり、「飲酒運転以上の交通違反をすればクビ」というのがある。
国家公務員法では、そんなことは決められていないので、これは税務署員だけに貸された厳しい規則である。
なぜ飲酒運転以上の交通違反をすればクビになるかというと、飲酒運転以下の交通違反であれば、マスコミに取り上げられることはないし、マスコミが嗅ぎ付けても、もみ消すことができる。
しかし、飲酒運転以上の交通違反になるとさすがに難しい。
もう一つ「サラ金でカネを借りたらクビ」という不文律もある。
こちらも国家公務員法に定められてはいない。
これは単なる名目だけの不文律ではなく、実際にこれでクビになった職員は大勢いるという。
税務署員が若くして退職する場合は、だいたいが消費者金融からの借入れが発覚してしまったケースとなる。
消費者金融への借金返済の目処がつかない場合、退職を勧告し、退職金で借金の清算をさせる。
その後、会計事務所などに再就職を世話し、辞めた後の生活が困らないようにしてくれる。
税務署員は退職後も、「元税務署員」という肩書は付いて回るので、そこまで面倒をみるのだという。