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2016年2月19日金曜日

1兆円をイメージするのに分かりやすい例として、毎日100万円を使い続けるとしたら、1兆円を使い切るのに2700年かかる。
「ロサンゼルス・タイムズ」のウェブサイト上では、教員名を入力すると、その教員がどの学校のどの学年を担当していたかという情報が表示でいるようになっている。
さらにその教員が担当していた子供達の州標準テストの結果から算出された付加価値と、その教員がカリフォルニア州全体でどのくらいの一にいるかということまでもが表示される。
教員の質を測る指標として、米国では「付加価値」は既に一般化しており、どこの誰でも悪セセスできる情報として公開されているのである。
ハーバート大学のチェティ教授らは、全米の大都市圏の学校に通う100万人もの小・中学生のデータと納税者記録の過去30年分のデータを用いて、付加価値が教員の質の因果効果をとらえるのに、極めてバイアスの少ない方法であることを明らかにした。
質の高い教員は、ただ単に子供の学力を上昇させているだけでなく、10代で臨まない妊娠をする確率を下げ、大学進学率を高め、将来の収入も高めるということも明らかにした。
付加価値は短期的にも長期的にはーも、教員の質を計測する事に成功しているのである。
そして、チェティ教授らはね付加価値でみたときに下位5%に位置する教員を、平均的な教員に置き換えるだけで、子供の生涯収入の現在価値を、学級あたり2500万円も上昇させることができると推計している。
少人数学級によって教員の「量」を増加させるよりも、教員の「質」を高める政策の方が、教育効果や経済効果が高い可能性がある。
スタンフォード大学のハヌシュク教授が行った、教員の質に関する研究によると、もともとの学力の水準が同程度の子供たちに対して、能力の高い教員が教えた場合、子供たちは1年で1.5学年分の内容を習得できた。
それに対して、能力の低い教員が教えた場合は、0.5学年分しか習得できなかった。
1年間で丸1年分もの習得の差が生じることが明らかになったのである。
ハヌシュク教授は、この結果をもとに、能力の高い教員は、子供の遺伝や堅い資源の不利すらも帳消しにしてしまうほどの影響力を持つと結論づけている。
文部科学省が毎年実施している「全国学力・学習状況調査」(学力テスト)は、文部科学省やその関連機関に所属する研究者など、限られた人以外はアクセスできない。
なぜならば「全国学力・学習状況調査」は統計法で定められ、研究者ならばアクセス可能な「統計」ではなく、「意見・意識など、事実に該当しない項目を調査する世論調査など」の分類の扱いとなっており、研究者はこのデータを学術研究に用いることができない。
神戸大学の伊藤准教授らの研究によると、学校で平等を重視した教育の影響を受けた人は、他人を思いやり、親切にし合おうという気持ちに欠ける大人になってしまう事が明らかとなった。
平等主義的な教育は、「人間は生まれ名がに持つ能力に差がない」という考え方が基礎となっているので、都力次第で全員が良い成績を取れると考える。
しかし残念ながら、子供の学力には遺伝や家庭資源など、子供自信にはどうしようもない要因が大きく影響している。
平等主義的な教育のもとでは、こうした現実には目を向けることがないので、成功しないのは努力をせずに怠けているからだと考えるようになってしまい、不利な環境におかれている他人を思いやることのないイヤなタイプの人間を多く育ててしまっている。
文部科学省によると、義務教育を受ける子供のうち、就学援助制度の利用者率は年々増加しており、2012年度には16%に達している。
特に大都市圏で高くなっており、2012年度には東京が24.2%、大阪が28.1%と子供全体の3割近くを占めている。
貧困の世代間連鎖による子供の貧困は、明らかに広がっている。
文部科学省が毎年実施している「全国学力・学習状況調査」(学力テスト)は、私立校も参加してよい事になっているが、参加校が少なく、実質的には「日本の公立小・中学学生のが苦慮区テストの都道府県別順位」となっている。
<全国学力・学習状況調査(文部科学省)>(2010年度・小学6年生・算数A)  
1位  秋田県
2位  福井県
3位  京都府
4位  青森県
5位  広島県
6位  東京都
7位  鳥取県
8位  富山県
9位  石川県
10位 岩手県 
<全国統一小学生テスト(四谷大塚)>(2011年6月・上位3000番出現率)
1位  東京都
2位  神奈川県
3位  千葉県
4位  埼玉県
5位  奈良県
6位  福岡県
7位  広島県
8位  愛媛県
9位  茨城県
10位 熊本県 
新潟大学の北條准教授らの研究で、子供の学力の50%が家庭や子供本人の要因で無決定される事が分かった。
さらには、学力には遺伝の影響も大きいことが分かっており、九州大学の行動遺伝学が専門の山形准教授らの研究では、中学3年生時点の子供の学力の35%は遺伝によって説明できることが明らかとなった。
「どういう学校に行っているか」と同じくらい、「どういう親のもとに生まれ、育てられたか」ということが学力に与える影響は大きいのである。
文部科学省が毎年実施している「全国学力・学習状況調査」の県別順位は、単に子供の家庭資源の県別順位を表しているにすぎない可能性がある。
日本の文教予算は15年前の1998年の550億円と比較すると20%以上も減少し、2013年は400億円となっている。
日本の公的教育支出を現状の対GDP比3.5%から、先進国の平均である5%に上昇させるとすると7兆円の財源が必要となる。
これは消費税3%に相当する額である。
リクルートワークス研究所の戸田氏らは、日本のデータを用いて、中学・高校生に培われた勤勉性、協調性、リーダーシップなどの非認知能力が、学歴、雇用、年収に影響することを明らかにしている。
同様に明治学院大学の李専任講師らの研究でも、外向性や勤勉性といった非認知能力が、年収や昇進に影響を与えることが示された。
神戸大学の西村教授らは、「しつけ」の角度から研究を行い、4つの基本的なモラル(ウソをつかない、他人を大切にする、ルールを守る、勉強する)をしつけの一環として親から教わった人は、それらを全く教わらなかった人と比較すると、年収が86万円高いということを明らかにした。
人生のかなり長い期間にわたって、計り知れない価値を持つ非認知能力への投資は、子供の人生にとって非常に重要であることが、多くの研究で明らかになっている。
目の前の定期試験で点数を上げるために、部活や生徒会、社会貢献活動を辞めさせたりする事には慎重であるべきであり、長い目でみて子供達を助けてくれるであろう「非認知能力」を培う貴重な機会を奪ってしまうことになりかねない。
IQや学力テストで計測される認知能力よりも、非認知能力の形成は、将来の年収、学歴や就業形態などの労働市場における成果にも大きく影響することが明らかになっている。
<非認知能力>
自己意識:自分に対する自信がある、やり抜く力がある
意欲:やる気がある。意欲的である
忍耐力:忍耐強い、粘り強い、根気がある、気概がある
自制心:意志力が強い、精神力が強い、自制心がある
メタ認知スタラテジー:理解度を把握する、自分の状況を把握する
社会的適性:リーダーシップがある、社会性がある
回復力と対処能力:ずくに立ち直る、うまく対応する
創造性:創造性に富む、工夫する
性格的な特性:神経質、外交的、好奇心が強い、協調性がある、誠実
シカゴ大学のヘックマン教授は、米国の一般教育終了検定を分析した結果、高校に通わずに一般教育終了検定に合格した生徒は、高校を卒業した生徒に比べて、年収や就職率が低い傾向にあることが分かった。
ヘックマン教授は、学力テストでは計測することができない木認知能力が、人生の成功において極めて重要であることを強調している。
また、誠実さ、忍耐強さ、社交性、好奇心の強さなどの非認知能力は、人から学び、獲得するものであり、学校とは教員や同級生から勉強以外の多くの事を学び、「非認知能力」を培う場所なのである。
1992年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のベッカー教授が提唱した「人的資本論」という考え方があり、教育を経済活動としてとらえると、将来に向けた「投資」として解釈できるという。
収益率が最も高いのは、子供が小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)である。
つまり、人的資本への投資は、とにかく子どが小さいうちに行うべきなのである。
ご褒美が子供の学力にどのように因果効果を持つかについて、ハーバート大学のフライヤー教授が、シカゴ、ダラス、ヒューストン、ニューヨーク、ワシントンDCで実験を行った。
この実験は、94億円が使われ、250校の小学2年生から中学3年生まで3万6000人の子供が参加した大規模なものだった。
学力テストや通知表の成績を良くすることにご褒美を与える「アウトプット」、本を読んだり宿題を終えたことに褒美を与える「インプット」の実験を比較した結果、学力テストの結果が良くなったのはインプットにご褒美を与えられた子供達だった。
インプットは子供達が何をすべきか明確なのに対して、アウトプットは具体的な方法が示されていないので、子供達自身の行動が分からないからである。
アウトプットにご褒美を与える場合には、どうすれば成績を上げられるかという方法ほ教え、導いてくれる人が必要となる。
就学前教育への支出は、雇用や生活保護の受給、逮捕率などにも影響を及ぼすので、社会全体にとっても良い影響をもたらす。
こうした社会への好影響を「社会収益率」といい、就学前教育への支出は年率7~10%にも上るという。
社会収益率が7~10%になるということは、4歳の時に投資した100円が、65歳の時には6000円から3万円になって社会に還元されるということである。