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2016年8月19日金曜日

日本でも治安の悪化が問題になっているが、刑法犯の件数は2015年に戦後最低となったことからも分かるように、日本社会はどんどん安全になっている。
高度成長期時代の始まる昭和30年代の「三丁目の夕日」の頃は、人口あたりの殺人件数は現在の2~3倍で、残酷な少年犯罪も多かった。
近年は若者の犯罪の減少が顕著で、世代別で最も犯罪者が増えているのは高齢者である。
このような状況は、世界的な傾向で、治安の悪化が叫ばれている先進国はどこも犯罪が大きく減っている。
ISのテロが大問題になるのは、その残酷さももちろんだが、それ以外の危険が減っているからという一面もある。
イギリスの生物学者ロビン・ベイカーは。平均すれば男性の10%は他人の子供を自分の子供と誤解して育てているという。
だが、この数字は所得によって大きく異なり、最低所得層に限れば他人の子供の比率は30%に跳ね上がり、最高所得層の男性では2%に激減する。
最低所得層の家庭に夫と血のつながらない子供が多い理由としては、夫の稼ぎが少なければ、それを失ったときのコストも小さいので、妻にとってはギャンブルをするハードルが低くなるのである。
イギリスでは刑務所から釈放された犯罪者の再犯が問題となり、2003年に「防衛のための拘禁刑(IPP)」プログラムが発足した。
これは、以前なに終身刑にならない被告を再犯の危険度によって無期懲役にする制度であり、2010年までに5828人がIPPの終身刑を宣告され、そのうち2500人は本来の犯罪の刑期を務めているものの釈放されたのは94人と4%に過ぎない。
さらにイギリスでは2000年に精神科医らの異議を無視して、「危険で重篤な人格障害(DSPD)に対する法律が制定され、その法のもとで危険だと考えられる人を、例え何も犯罪を犯していなかったとしても、警官が逮捕し検査と治療のためと称して、施設に送ることができる。
イギリスのDSPD法も、IPPもトニー・ブレアが率いるリベラルな労働党政権によって制定されている。
米政治学者のチャールズ・マレーは、行動計量学者のリチャード。ハーンスタインと共著で1994年に『The Bell Curve』(ベルカーブ)を出版し、全米に憤激の嵐を巻き起こした。
本の中で、白人と黒人の間にはおよそ1標準偏差(白人の平均を100とすると黒人は85)のIQの差があり、これが黒人に貧困層が多い理由だと述べたからである。
『ベルカーブ』はベストセラーとなったものの、マレーは「白人と黒人の知能の差を暴いた」と評価されることが不満だった。
なぜなら、彼らは本の中で、「アメリカ社会を経済的に分断するのは人種ではなく、知能格差だ」と主張していたからである。
この仮説を検証するために、『階級「断絶」社会アメリカ』を出版した。
この本でマレーは、人種問題を回避するために、分析対象を白人に限定し、知能の格差が彼らの人生にどのような影響を与えるかを調べた。
大学や大学院を卒業した知識層と、高校を中退した労働者層とを膨大な社会調査のデータを集めて比較したのである。
まず郵便番号と国政調査の世帯所得から所得の上位5%、年収20万ドル以上の富裕層が住んでいる場所を抽出し、彼らが特定の超高級住宅地域に集中している事を突き止めた、
次いで、多くの企業経営者を排出するハーバード・ビジネススクールと、ハーバード大学、プリンストン大学、エール大学の3つの一流大学の卒業生名簿から、40代と50代の住所を調べた。
その結果、HBSの卒業生の61%が超高級住宅地に住み、全体の83%が(世帯所得では上位2割)、高級住宅地に住んでいた。
一流大学でも卒業生の45%が超高級住宅地に、74%が高級住宅地に住んでいた。



「幸福のホルモン」と呼ばれるセロトニンは、脳内の濃度が高いと楽天的になり、レベルが下がると神経質で不安を感じやすくなるとされている。
このセロトニンを運搬するトランスポーター遺伝子には、伝達能力が高いL型と伝達能力が低いS型があり、その組み合わせでLL型、SL型、SS型の3つが決まる。
この分布には大きな地域差があり、日本人の場合、7割がSS型でLL型は2%と世界で最も少ない。
これが日本人に、うつ病や自殺が多い遺伝的な理由だとされている。
不安感が強い人は将来のことを心配して、今から備えようと努力する。
東アジアの国々で封建的な政治・社会制度が発達し、厳しい規律の組織が好まれる理由とも考えられる。
儒教がSS型の遺伝子型に適した思想だったからこそ、東アジア全域に広まったのであろう。
「身長の遺伝率66%」というのは、背の高さのばらつきのうち66%を遺伝で、34%を環境で説明できるという事である。
よくある誤解は、遺伝率を個々の確率と取り違えることで、身長の遺伝率は「背の高い親から66%の確率で背の高い子供が生まれ、34%の確率で子供の背は低い」ということではない。
受精卵はDNAのランダムな組み合わせなので、両親の遺伝的特性からどのような子供が生まれるのかを事前に知ることはできない。
しかし、遺伝率が高いほど遺伝的な要因が大きく作用することは間違いない。
興味深いのは、体重の遺伝率が74%と、身長の遺伝率より高い事で、太っているのはダイエットに失敗した、努力が足りないからだと考えられてしまうが、体重の高い遺伝率を考えると、「ダイエットに成功できるのは遺伝的に太らない人」という可能性もある。
イギリスで1994年から3年間に生まれた5000組の双子の子供達を対象に、反社会的な傾向の遺伝率調査が実施された。
それによると、「冷淡で無感情」といった性格を持つ子供の遺伝率は30%で、残りの70%は環境の影響だとされた。
次いで研究者は、教師などから「矯正不可能」と評された、極めて高い反社会性を持つ子供だけを抽出したところ、その結果は衝撃的であった。
犯罪心理学でサイコパスに分類されるような子供の場合、その遺伝率は81%で、環境の影響は2割弱しかなかった。
しかもその環境は、子育てではなく友達関係のような「非共有環境」の影響とされた。
この結果が正しいとすれば、子供の極端な異常行動に対して、親ができることは殆どないという事になる。
統合失調症の遺伝率は82%、双極性障害(躁うつ病)の遺伝率は83%という。
遺伝率80%というのは、「8割の子供が病気にかかる」ということではないが、身長の遺伝率が66%、体重の遺伝率が74%であることを考えれば、この遺伝率80%という数字の意味が理解できる。
一般知能はIQ(知能指数)によって数値化できるので、一卵性双生児と二卵性双生児を比較したり、養子に出された一卵性双生児を追跡することで、その遺伝率をかなり正確に計測できる。
こうした学問を行動遺伝学というが、論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能(IQ)の遺伝率は77%であるという。
知能の違い、つまり頭の良し悪しの7~8割は遺伝で説明できるということなのである。