東京電力は福島第一原発事故以前まで、圧倒的な信用力により電力債での資金調達が殆どだった為、銀行からの借入れノウハウはゼロに等しかった。
銀行側も若手の営業担当に東京電力を担当させ、ディスクロージャー誌を取ってくる程度の情報しか持っておらず、まともに資産・財務状況、事業内容を研究することもなかった。
つまり、東電も銀行も殆ど取引関係も信頼関係もない中で、深刻な原発事故への対処が突然始まり、金融支援態勢を組まねばならない事態に直面したのである。
さらに、民主党政権の枝野官房長官が金融機関に債権放棄を迫る発言をしたことも、金融機関の支援態勢に動揺を広げていた。
77行の取引金融機関の足並みがそろわなければ、東電は破綻に追い込まれ、損害賠償の責任ある履行が難しくなり、電力の安定供給が揺らぎ、放射性物質による汚染拡大を防ぐ当事者能力を喪失する恐れがあった。
さらに保険会社が大量に持つ総額5兆円の電力債が債務不履行に陥れば、金融市場の大混乱にもつながる恐れもあり、日本は経済的に計り知れない損害を受ける可能性もあった。
逆に、銀行が東電を支えるには難題もあった。
取引先の返済能力を区分する債務者区分で東電を正常先に分類しなければ、銀行に取引金処理が発生するため、融資し続けることは不可能であり、東電を融資可能な状態で維持していくには綱渡りの状態だった。
そこで金融庁と経済産業省によって、銀行が破綻した際に預金者を保護する預金保険機構を参考に、国、原子力発電の事業者が出資する原子力損害賠償支援機構(現、原子力損害賠償・廃炉等支援機構)の設立に繋がっていくことになる。